特別受益・寄与分

遺産相続の特別受益とは?計算方法や時効の有無について解説

代表弁護士山田 冬樹
<監修者> 代表弁護士 山田 冬樹
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他の相続人が亡くなった方(被相続人)から生前に贈与や遺贈を受けていた場合、残った遺産だけを分配の対象にすると、贈与や遺贈を受けていない相続人にとっては、不公平なことになってしまいます。こういった不公平を避けるための仕組みとして「特別受益」というものがあります。このページでは、どのようなものが特別受益となり、その場合どういう効果が生じるのか、時効はあるのかなどについて解説します。

特別受益とは

特別受益とは、一部の相続人が、贈与や遺贈によって被相続人から受け取った利益のことです。例えば、相続人の一人が生前贈与を受けていた場合、その生前贈与分が特別受益として扱われると、贈与財産の金額を相続財産に加えた上で、各人の相続分を算出します。そのため生前贈与等を「持ち戻す」という言い方もします。

特別受益の対象となるもの

民法は、「遺贈」、「婚姻のための贈与」「養子縁組のための贈与」「生計の資本としての贈与」の4つを特別受益の対象としています。どのようなものがこれにあたるのかを次に説明します。一番議論が多いのが、生計の資本としての贈与であり、特に大学進学費用、不動産の無償使用、生命保険金、死亡退職金がこれにあたるかが問題となります。

遺贈

遺贈とは、遺言で「不動産の全てをAに相続させる」といったように、特定の相続人に財産を取得させることを言い、遺贈は全て特別受益の対象となります。

婚姻のための贈与

婚姻のための贈与も特別受益の対象となります。ただし、持参金・嫁入り道具が婚姻のための贈与に含まれることには、ほぼ異論がありませんが、結納金・挙式費用が含まれるかについては争いがあります。

養子縁組のための贈与

最近はあまり見られませんが、養子縁組に際しての持参金などが渡された場合がこれにあたり、特別受益の対象となります。

生計の資本としての贈与

大学進学費用

大学進学費用などの学費は、「扶養の範囲を超えた贈与」であった場合、特別受益と認められやすくなります。
例えば、親の資産、社会的地位を基準として高等教育を受けることが相当と認められる場合には、学費の支出は通常の扶養の範囲内であり、特別受益とは認められません。特に現在は高校卒業者の4分の3が大学・専門学校等に進学するため、通常の扶養とみられる可能性が高いでしょうし、逆に相続人が高齢で、高校卒業当時は、大学進学が一般的でなかったという場合は、特別受益の対象となる可能性が高いでしょう。両親が大卒という場合も、大学進学費用は通常の扶養の範囲内と言われることが多いでしょう。

不動産の無償使用

親が所有する不動産に無償で住んでいる場合、家賃分が特別受益にあたるとされることもあります。ただ、親と同居している場合は、親の立場からすれば、同居している子に対しては報いてやりたいという気持ちがあるでしょうから、後で述べる持ち戻しの免除の意思が認められることが多いでしょう。

生命保険

相続人のうち一人だけが生命保険の受取人として生命保険金を受け取ったとしても、生命保険金は原則として、特別受益にはあたりません。ただ、保険金の額、相続人と被相続人との関係、各相続人の生活実態からして、生命保険金を特別受益としないと著しい不公平が生じるといった場合は特別受益になり得ます。
被相続人が相続人の一人に全財産を生前贈与しようと思えばできたのですから、生命保険金の額が遺産と比べてかなりの高額でないと特別受益とはされにくいでしょう。受取人が妻の場合、受取人となった相続人が生活に困窮していた、あるいは障害があるという場合も特別受益とされないのが普通でしょう。

死亡退職金

死亡退職金については、裁判官によって判断が分かれるところです。勤務先の規定で、在職中に死亡した従業員に退職金が支給される場合、退職金が賃金の後払いという性質を持つことから特別受益となるとした裁判例もあれば、生命保険金と同様に原則として特別受益にならないとした裁判例もあります。

特別受益の対象とならないもの

亡くなった方から過去に受けた贈与が、特別受益の対象となるのか、ご自身では判断が難しい場合もあるかもしれません。

例えば、大学の卒業旅行で海外旅行に行った費用を親に負担してもらっていた場合はどうなるでしょう?この場合、基本的には、扶養の範囲を超えた贈与、つまり「生計の資本としての贈与」とは判断されず、特別受益の対象となりません。

次に、収入が少ないという理由で、親から足りない生活費の仕送りをしてもらっていた場合はどうでしょう?この場合も、それは扶養として行ったものと考えられ特別受益の対象となりません。

これらの他にも、後で詳しく述べますが「持ち戻しの免除」があったと考えられる場合も特別受益の対象となりません。亡くなった方から過去に受けた贈与が特別受益に該当するのか、ご自身での判断が難しい場合は是非、弁護士にご相談ください。

特別受益の計算方法

特別受益がある場合の相続金額を計算式で表すと以下のようになります。

特別受益を受けた相続人
(相続時存在する財産金額+特別受益財産金額)×相続割合-特別受益財産金額

特別受益を受けていない相続人
(相続時存在する財産金額+特別受益財産金額)×相続割合

特別受益の計算例

ケース1

例えば、被相続人が長男と次男のうち、長男に1000万円贈与し、被相続人が亡くなった時点で現金が3000万円あったとします。特別受益とは、この場合「遺産の価格を、現在ある3000万円に生前贈与された1000万円を加えた4000万円とみなす」という制度です。したがって長男と次男は2000万円ずつ相続しますが、長男は既に1000万円生前贈与されているため、3000万円のうち1000万円しか相続できません。

ケース2

ただ、「相続時の財産が3000万円、妻W、長男A、次男Bが相続人で、妻Wが1000万円、長男Aが2000万円を生前贈与されていた」ような場合、上記の計算式で計算すると次のようになってしまいます。

  • Wの相続分:(3000+1000+2000)× 1/2 - 1000 = 2000万円 ・・・①
  • Aの相続分:(3000+1000+2000)× 1/4 - 2000 = -500万円
  • Bの相続分:(3000+1000+2000)× 1/4 = 1500万円 ・・・②

計算上Aの相続分は-500万円になりますが、民法はBがAに-500万円支払うよう求めることは認めていません。
では、どう計算すべきでしょうか、裁判例は次の二つに分かれています。

裁判例1 上記の計算で求めたW、Bの相続分の金額で、遺産総額を按分する
  • 妻Wの相続分: 3000 × ① ÷(① + ②)= 3000 × 2000 ÷(2000 + 1500)≒ 1714万円
  • Aの相続分: 0円
  • Bの相続分: 3000 × ① ÷(① + ②)= 3000 × 1500 ÷(2000 + 1500)≒1285万円
裁判例2 W、Bの法定相続分で、遺産総額を按分する
  • 妻Wの相続分: 3000 × 1/2 ÷(1/2 + 1/4)= 2000万円
  • Aの相続分: 0円
  • Bの相続分: 3000 × 1/4 ÷(1/2 + 1/4)= 1000万円

特別受益の持ち戻し免除

特別受益の制度は、相続人間の公平を図るためのものですが、特別受益を相続財産に「持ち戻す」制度といえます。しかし、民法は遺言という制度を定めて、被相続人が相続人の一部に遺産を多く与えることを認めていますから、被相続人が敢えて一部の相続人の利益を考えて生前贈与した場合には、「持ち戻し」を認めないとして、被相続人の意思を尊重することにしています。このように、生前贈与があったとしても、贈与を持ち戻させない意思表示を「持ち戻しの免除」といいます。

被相続人が持ち戻しの免除の意思を、具体的に書面で残していることはほとんどないため、裁判所は「黙示の意思表示」といって、様々な事情を考慮し、被相続人が持ち戻しの意思を免除して生前贈与しただろうと推測されるときは、贈与財産を特別受益に含めないものとしています。

また、2019年7月1日から改正相続法が実施され、結婚期間が20年以上の夫婦の間で居住用不動産が生前贈与または遺贈された場合、持ち戻しを免除したものと推定するとの規定が置かれました。20年は目安であり、実際に結婚生活が20年にはならなくても、相当長期の場合には、持ち戻しを免除したとされることが多いでしょう。

特別受益に時効はある?

遺産分割協議においては、特別受益に該当する贈与については、時効は特に定められていません。ただし、あまり古い贈与になってしまうと、立証が困難になってしまう場合が多いです。

なお、遺留分の請求においては、被相続人死亡時の遺産に生前贈与分を加えたものが遺留分の対象となりますが、2019年7月1日から改正相続法が実施され、同日以降に被相続人が死亡した場合、死亡から10年以上前に行われた特別受益は加算されないことになりましたので注意が必要です。

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