相続放棄・限定承認

被相続人が連帯保証人だった場合の相続放棄

代表弁護士山田 冬樹
<監修者> 代表弁護士 山田 冬樹
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亡くなった方が誰かの連帯保証人になっていた場合、相続人はその責任も引き継がなければならないのでしょうか?知人の借金などの保証に限らず、亡くなった方が会社経営者であった場合には、会社の借金の連帯保証人になっているケースがよくあります。ここでは、相続における連帯保証人の扱い、財産を相続放棄するときの注意点などについて解説します。

連帯保証人の保証債務は相続財産に含まれる

保証とは債務者が債務を履行することができない場合に、この債務者に代わって債務を履行すると約束することをいい、この保証した人を保証人、元々の債務者を主債務者といいます。

保証には普通保証と連帯保証があります。普通保証にすると、保証人は、自分に請求する前に主債務者に請求してくれとか、◯◯銀行に預金があるからそれを差し押さえてからにしてくれという主張ができますが、連帯保証はそういった主張ができません。このため、債権者が保証人を取る場合、連帯保証人としているのが普通です

そして相続において、連帯保証人としての債務(保証債務)は、プラスの資産である不動産、預金、債権や、マイナスの資産ともいえる借金などと同様に、相続財産に含まれます。そのため、連帯保証人だった被相続人が死亡すると、その保証債務は相続人が引き継ぐことになり、主債務者が借金を返せなくなってしまったようなケースでは、相続人の元へ借金返済の督促がされることになります。

相続人が複数いる場合はどうなる?

被相続人が誰かの連帯保証人で、相続人が複数いる場合、各相続人は債務全額について保証債務を負うことはなく、法定相続分に応じた金額についてだけ保証債務を負うことになります。例えば、BがAから300万円を借り、Cが連帯保証人になり、その後Cが死亡しその子であるⅩとYが相続した場合、Ⅹ、Yはそれぞれ150万円についてだけ保証債務を負うことになります。

継続的保証の相続について

継続的保証といって、事業をしているAが、取引先のBに対し将来発生する支払について、Cが連帯保証しているケースがあります。その後Cが死亡した場合、保証対象となる取引の期間、金額が限定されている場合は、相続人は連帯保証人として、Cの死亡後に発生した債務についても保証することになります。一方で、取引の期間、金額が限定されていない場合は、相続人はC死亡時点に存在する債務だけについてしか保証債務を負いません。被相続人が身元保証人となっていた場合も同様です。2022(令和4)年4月1日以降なされた保証契約は2020(令和2)年改正法の適用を受け、金額・期間が限定されていなければ保証自体無効なため、一切返済する必要はなく、期間・金額が限定されていても、保証人が死亡した時点で、保証の対象となる債務が確定し、それ以降発生した債務については保証債務を負いません。

連帯保証人の財産を相続放棄するときの注意点

相続放棄の前に検討すべきこと

被相続人が連帯保証人となっていた場合、相続人はどのように対処したらいいでしょうか。まず浮かぶのが相続放棄、すなわちプラスの財産も要らない代わりに、マイナスの財産もいらないとして、家庭裁判所に申述する方法ですが、その前に検討すべきことがいくつかあります。

① 契約書がない場合、保証契約が無効の可能性がある

以前は、口頭での約束でも保証人となりましたが、2004(平成16)年の民法改正で、書面での約束がないと保証人とはならないことになりました。この法改正は2005(平成17)年4月1日から実施されています。ですから、被相続人が連帯保証人となったのが、2005(平成17)年4月1日以降の場合は、債権者に書面で保証する約束をしたのかどうか確かめ、書面がなければ支払いに応じる必要はありません

② 継続的保証の場合、保証債務を負わない可能性がある

前述したように、継続的保証の場合は、期間や金額に限度がない場合、死亡後に発生した債務については責任を負いません。2022(令和4)年4月1日以降にした継続的保証については、期間や金額に限度が無い場合、保証自体無効ですし、期間や金額が限定されていても、死亡後発生した債務については保証債務を負いません。

③ 保証債務が時効になっている可能性がある

2022(令和4)年4月1日以降に発生した債務は原則5年、同年3月31日以前に発生した債務であれば原則10年、当事者が会社の場合は5年、家賃等毎月発生する債務も5年、売買代金は2年、宿泊料、レンタル代金は1年で時効になります。他にも細かい規定があるので注意が必要ですが、時効が成立している場合は、時効を援用することで債務をなくすことができます。

④ 元の借金が減額できる可能性がある

さらに貸金業者や信販会社からの借金の場合、2010(平成22)年6月以前の借入であれば、利息の払い過ぎで債務額が減ったり、過払い金が出ていたりします。

⑤ 生命保険の保険金額も判断材料に

生命保険の保険金がどのくらいあるかも重要です。自分が保険金の受取人となっている場合、保険金は相続財産に含まれないため、相続放棄により借金だけ0にすることができるからです。

このような検討をしても、やはり債務が残ってしまうという場合には、相続放棄をして保証債務を無くしてしまう方法を検討することになります。

相続放棄の熟慮期間は3か月

相続放棄の意思表示(「申述」といいます)は、被相続人の住民票上の住所を担当する家庭裁判所に、所定の事項を書いた書面でしなければなりません。相続放棄の申述は、被相続人が死亡した時(先順位の相続人が死亡、放棄している等で自分に相続権があることを知った時)から3か月の間にしなければなりません。この3か月を熟慮期間といいます。ただ、遺産がどれだけあるか、債務がどのくらいあるか、債務が本当に支払わなければならないものかを調べるのに、3か月では足りないというときは、家庭裁判所に熟慮期間の伸長(延長の意味です)を書面で申し立てることができます。相続放棄の申述も、熟慮期間の伸長の申立も、その際、被相続人の生涯の戸籍と、自分の関連する戸籍を提出しなければならないため、戸籍の収集は早めにしておくことが必要です。
熟慮期間中に、遺産を勝手に処分してしまうと、法定単純承認といって、相続放棄が許されなくなるため、遺産に手を付けるのは避けるべきです。

限定承認とは

また、相続放棄以外に「限定承認」という手続きもあるので、その利用も考えられます。この限定承認とは「プラスの財産の範囲でマイナスの財産を相続する。」というもので、資産の調査、価格査定、債務の調査に時間がかかる場合は、限定承認という方法をとることも可能です。但し、限定承認は相続放棄と比べて手続きが複雑なため、弁護士と相談して手続することをお勧めします。

連帯保証人だったことを知らずに相続してしまったら

保証債務は隠れた債務ともいえます。なぜなら、主債務者がきちんと払っている限りは、保証債務の履行を求められることはなく、主債務者の支払いが滞ったとき、はじめて保証人に請求が来るからです。死亡後何年も経ってから請求がくるということも少なくありません。そうした場合、熟慮期間も過ぎており、相続放棄できないかというと、必ずしもそうではありません。

例えば、遺産がプラスの財産、マイナスの財産を含め、全くないと思われるような場合、相続放棄することは思いもつかないでしょう。そうした場合に、被相続人が死亡して、3か月以上経ってから保証債務の履行を求められたとき、相続放棄が許されないというのは酷な話です。家庭裁判所も、熟慮期間を過ぎたからといって、一律に認めないという扱いはしていません。

実際に「被相続人のプラス財産及びマイナス財産について相続の開始があったことを知らず、請求を受けて初めて債務の存在を知った」というケースで、請求があったときから3か月間は相続放棄できるとした裁判例があります。他にも、数十万円くらい預金があったので、葬儀代に使ってしまったという場合、葬儀代を遺産から払っても相続放棄は可能という裁判例もあります。

一度家庭裁判所に相続放棄の申述を受け付けてもらえれば、債権者も敢えて相続放棄の効果を争って、裁判までしてくることもない可能性が高いため、こういった事情がある場合は、すぐにも相続放棄の手続きをとることをお勧めします。

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