- 弁護士による相続相談TOP
- 特別受益・寄与分
- 寄与分とは
寄与分とは?認められるための要件と計算方法について解説
例えば、被相続人が亡くなる前に、介護や身の回りの世話をしていたり、事業を手伝っていた相続人がいる場合、寄与分が認められると、貢献の度合いに応じて相続財産を増やすことができます。
寄与分とは
ある相続人が、被相続人の財産減少の防止、あるいは、財産増加に特別な貢献をした場合、その相続人が他の相続人と同じ相続分では不公平が生じます。
そのため、特別な貢献をした相続人の法定相続分に、財産減少防止できた額、あるいは、財産の増額分を、上乗せして取得できるようにした仕組みが「寄与分」です。
寄与分が認められる要件
寄与分が認められるための要件には以下のようなものがあり、これらのすべてに該当する必要があります。
- 相続人の寄与があること。
- 特別の寄与であること。
- 寄与行為が無償で行われること。
- 財産の維持・増加との因果関係があること
- 相続開始時までの寄与であること
寄与分の要件について、具体的な3つのケースを例に解説します。
ケース1)妻が、夫の父親の事業や療養看護に貢献していた場合
妻が夫(相続人)とともに夫の親(被相続人)の家業を助けた場合や、妻が夫の親の療養看護に努めた場合、妻は夫のために行なっているといえるため、妻の寄与を相続人である夫の寄与として評価することが認められています。
ケース2)夫が亡くなった場合の妻の貢献
夫が亡くなり妻が相続人となった場合、夫婦間には法律上の同居・協力・扶助義務があるため、基本的には「(2) 特別の寄与であること」の要件を満たしません。夫婦間で寄与分が認められるためには、法律が想定する以上の貢献が必要とされています。
ケース3)実家暮らしの娘が、同居する父親の療養看護をしていた場合
実家暮らしの娘が、父親の療養看護による寄与分を主張する場合、他の相続人から、父親の家に無償で住んでいたため寄与分はない、と主張されることがよくあります。療養看護と家の無償使用との間には純粋な対価関係はないものの、「(3) 寄与行為が無償で行われること」の要件を満たすかどうかは意見が分かれる可能性があります。
このようなケースでは、療養看護の寄与分を認めつつ、無償で居住していたことを考慮し、寄与分の額を何割か減らすことでバランスをとった裁判例があります。(東京高裁平成29年9月22日)
寄与分が認められる5つのパターン
1. 家業従事型
被相続人の家業に従事していた相続人に認められるパターンです。妻が亡くなった夫の家業に長年従事したという場合、夫婦の協力義務の表れとして寄与分を認めない裁判例もあれば、認める裁判例もあり、見解が分かれます。一方で、子の親に対する扶養義務は、夫婦間の扶養義務より責任が軽いため、子が親(被相続人)の家業に従事して、財産の維持・増加に貢献していた場合は、寄与分として認められやすくなります。
2. 金銭等出資型
相続人が、被相続人名義で不動産を購入していた場合や、借金を代わりに返済していた場合など、金銭的な貢献があった場合に認められるパターンです。例えば、妻の方がはるかに高収入であったが、結婚後購入した自宅不動産が亡くなった夫名義だったという場合、妻の収入に応じた寄与分が認められます。また、亡くなった父の事業に子の一人が資金援助していた場合もこれにあたります。一方で親の海外旅行代を出しても、それで遺産が増えるわけではないので寄与分には当たりません。
3. 療養看護型
被相続人の介護や、病気の看護を行なっていた場合に認められるパターンです。療養看護があれば必ずしも寄与分が認められるものではありません。まず、被相続人が「療養看護を必要とする健康状態であったこと」が必要で、具体的には、要介護認定の有無、その程度が参考になります。なお、入院、施設へ入所していた時期の療養介護は、原則として寄与分は認められません。
4. 扶養型
相続人が被相続人の生活費を援助していた場合に認められるパターンです。子が生前の親に生活費を援助したことで、親の退職金が目減りしなかった、あるいは、年金を使わずに済んだので預金が積みあがったといった、財産の維持・増加との関係が明確な場合は寄与分として認められていいでしょう。
5. 財産管理型
被相続人が所有する不動産などの、管理や手続き、賃借人との交渉などを行なっていた場合に認められるパターンです。ただし、親が所有する賃貸家屋を管理していたからといって、必ずしも寄与分が認められるわけではありません。 ある財産管理型の寄与分を認めた裁判例では、「自分のお金で、親の自宅を改装し、一部を賃貸できるようにし、その後老朽化すると、賃借人の立退交渉、建物解体、滅失登記手続、買手探しを行ない、隣地権利者と交渉し敷地面積を増加させ、売買代金を信託預金・定期預金にする等して金銭の流出を防いだ」ことについて「特別の寄与」があるとしました。このようなケースから、財産管理型の寄与分が認められるためには、かなり高いハードルがあると言っていいでしょう。
ただし、上記いずれのケースでも、「特別の寄与」であること、すなわち被相続人との身分関係に照らし通常要求される程度を超えたといえるような特別の貢献が必要です。また、相続人の行為によって、実際に被相続人の財産が維持または増加したという関係が必要です。たとえば、ヘルパーを頼まずに重い要介護状態の夫の介護を続けた妻がいる場合(療養看護型)、夫が負担すべきヘルパーに対する介護報酬の支払いを免れたといえるため、夫の財産を維持した、と評価できます。
上記のように、寄与分が認められるためには特別の貢献が必要であるため、夫婦間の協力扶助義務、親子間の扶養義務の範囲であれば、「特別の寄与」とはいえません。つまり、夫婦、親子という関係からすれば一般的に期待されるような行為については、特別の寄与とはいえません。
寄与分がある場合の相続分の計算方法
寄与分がある場合の各相続人の相続分は次のように計算します。
寄与分がある相続人の相続分
(遺産総額-寄与分)×法定相続分+寄与分=相続分
寄与分がない相続人の相続分
(遺産総額-寄与分)×法定相続分=相続分
寄与分の計算例
相続人は子のAとBであり、遺産総額が6000万円、子Aの寄与分が1000万円ある場合のA、Bの相続分は次のようになります。
- Aの相続分:(6000万円-1000万円)× 1/2 + 1000万円 = 3500万円
- Bの相続分:(6000万円-1000万円)× 1/2 = 2500万円
では、相続人の中に寄与分がある人と、特別受益がある人がいる場合はどうなるでしょう。
相続人は子のAとBであり、遺産総額が5000万円、子Aの寄与分が1000万円、子Bの特別受益が2000万円ある場合のA、Bの相続分は次のようになります。
- Aの相続分:(5000万円-1000万円+2000万円)× 1/2 + 1000万円 = 4000万円
- Bの相続分:(5000万円-1000万円+2000万円)× 1/2 - 2000万円 = 1000万円
特別寄与料制度について
寄与分は相続人にしか認められていません。例えば、相続発生時点で被相続人(父)の長男がすでに死亡していた場合、長男の妻は相続人ではありません。そのため、長男の妻が被相続人の介護等に貢献し、被相続人の財産の維持・増加に特別の寄与をしたとしても、長男の妻に寄与分は適用されませんでした。
しかし、それでは不公平なため、特別な寄与をした相続人ではない親族(上の例では長男の妻)が、相続人に対してその寄与に応じた金額(特別寄与料)を請求できることが、2019年7月から実施されている改正相続法で認められました。
その要件は以下の5つです。
- 被相続人の親族であること
- 無償で療養看護その他の労務を提供したこと。
- 被相続人の財産の維持・増加のあったこと
- 労務の提供と財産の維持・増加に因果関係のあること
- 特別の寄与
6親等内の血のつながりのある者(6親等内の血族。はとこが6親等血族の典型)か、配偶者の3親等内の血のつながりのある者(3親等内の姻族。配偶者の親の兄弟姉妹が3親等血族の典型。)が親族にあたります。
特別寄与が認められるのは「労務の提供」についてであり、ほとんどのケースで「療養看護型」と「家業従事型」に限られます。「金銭出資型」「扶養型」は認められず、「財産管理型」についても財産提供分は特別寄与では考慮されません。この点が「寄与分」と大きく異なります。
また、特別寄与料制度には次のような特徴があります。
- 特別寄与者が、被相続人の死亡及び相続人を知った時から6ヵ月、または、被相続人の死亡後1年を過ぎてしまうと、特別寄与料を請求できなくなります。
- 相続人が複数いる場合、各相続人に、各人の相続割合に応じて請求できます(例えば、相続人が3人の場合は3分の1ずつ)。また、一部の相続人には請求しないことも可能です。
- 相続人から特別寄与の存在や、金額を争われた場合、家庭裁判所に調停を求めることができます。
- 特別寄与料の額は、「相続財産の価額-遺贈財産の価額」を超えることはできません。
- 特別寄与料は、各相続人が各人の相続割合に応じた額を負担しますが、遺言で各相続人の相続分が指定されている場合(例えば「長男の相続分を2分の1とする」とあるような場合)は、各相続人が指定された相続分に応じて負担します。
- 療養看護が特別寄与と認められるためには、被相続人が「要介護2」以上の認定をされている必要があります。
- 療養看護による特別寄与料の計算方法は、「介護報酬相当額☓療養看護の日数☓裁量割合」となります。この「裁量割合」は、裁判所が決定しますが、5割から8割程度の範囲内で、特に7割程度とされることが多いと言われています。