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遺留分侵害額請求(遺留分減殺請求)とは?手続きの流れと注意したいポイントを解説
ここでは、遺留分侵害額請求(2019年6月30日までに生じた相続については遺留分減殺請求)について紹介します。やや難しい内容になりますが、以下に当てはまる方は、早急に弁護士に相談することをお勧めします。
- 被相続人(亡くなられた方)が
遺言 を残していたが、遺言によってもらえる財産がかなり少ない。 - 被相続人の財産の有無を調べたところ、生前に財産が贈与されていた。
遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とは、遺言や生前贈与によって侵害された遺留分について、侵害している相続人などに対して侵害額相当額の支払いを求める内容の金銭請求をすることをいいます。遺留分侵害額請求は、特定の子供に多く相続させる場合だけでなく、下記のようなケースでも当てはまることがあります。
- 被相続人が、生前に愛人に多くの財産を贈与していた
- 被相続人が、施設や団体に全財産を寄付する遺言を残していた
遺留分とは
遺留分とは、相続人に保障された最低限の相続分です。例えば、被相続人の子が3人おり妻はすでに他界しているというときに、被相続人が遺言で、長男に財産を全額相続させるとしていたとしても、長男以外の子供には最低限守られる取り分があります。
遺留分は、上記のような遺言で特定の相続人に財産を多く相続させる場合だけなく、生前贈与により相続時に財産が少なくなってしまい最低限の取り分を下回っている場合にも主張できます。
なお、兄弟姉妹には遺留分はなく、遺留分があるのは、配偶者、子とその父母(父母がいない場合は祖父母)だけです。
遺留分侵害額の計算方法
具体例をもとに遺留分侵害額を計算してみます。
【事例】
・被相続人Aの相続人は、妻Xと子Y、Z。
・被相続人Aは、「遺産総額2000万円の中から、Xに1800万円、Yに200万円を相続させ、Zには相続させない」という遺言を残した。
1. 遺留分を算定するための基礎となる財産額の算出
遺留分を算定するための基礎となる財産(基礎財産といいます)の額は、
被相続人が死亡時点で有していた財産(遺贈された財産を含む)+ 特定の贈与財産 − 相続債務
という式で算出されます。
ここにも、何十年も前に贈与された財産はどう考えるのかなどの問題があるのですが、ひとまず上記事例では基礎財産は2000万円であることを前提とします。
2. 遺留分の算出
遺留分は、
基礎財産 × 個別的遺留分(=総体的遺留分率 × 法定相続分)
という式で算出されます。
上記事例では、相続人は妻子なので、相続人全体に確保されるべき総体的遺留分率は2分の1です(民法1042条1項2号)。
そして、Xの法定相続分は2分の1、Y・Zの法定相続分は各4分の1です(民法900条1号、4号)。これによりXに確保されるべき個別的遺留分率は4分の1、Y・Zに確保されるべき個別的遺留分率は8分の1です。
したがって、各自の具体的遺留分は次のとおりです。
- X:2000万円×4分の1=500万円
- Y・Z:2000万円×8分の1=250万円
つまり、Xには最低500万円、Y、Zには最低各250万円が確保されなければなりません。
3. 遺留分侵害額の算出
しかし、上記事例では、Xは遺留分である500万円を上回る1800万円をもらえていますが、Y・Zは遺留分である250万円をもらえていません。したがって、Y・Zの遺留分侵害額は次のとおりです。
- Y:遺留分250万円−200万円=50万円
- Z:遺留分250万円−0円=250万円
つまり、Yは遺留分を50万円だけ侵害されており、Zは遺留分を250万円まるまる侵害されているということになります。
遺留分侵害額請求の時効と除斥期間
遺留分侵害額請求権は、①相続が開始したこと(自分が相続人となったこと)、②遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことの2つを知った時から1年間の間に行使しなければ、時効によって消滅してしまいます。
また、普段、被相続人と疎遠であったこと等から、被相続人が死亡して自分が相続人となったことを長い間知らなかったケースであっても、相続開始の時から10年を経過すると遺留分侵害額請求権を行使できなくなります。これを除斥期間といいます。そして、遺留分侵害額請求をした後5年を経過すると侵害額に相当する金銭を受け取る権利は時効で消滅します。
適切に権利行使するためには、早急に弁護士にご相談ください。
遺留分侵害額請求の進め方
1. 話し合いによる交渉
遺留分を侵害されている人(上記事例のY・Z)が、遺留分を侵害する遺贈・贈与を受けた人(上記事例のX)に対し、遺留分侵害額を支払うよう話し合いで求めることになります。
話し合いがまとまれば、合意書を取り交わしましょう。合意書に意図した通りの法的効力を持たせ、後日、争いが生じないようにするためには、弁護士に作成を依頼すべきです。
2. 内容証明郵便による請求
遺留分侵害額請求の時効はわずか1年間であることから、請求するに当たっては早急に準備する必要があります。もっとも、遺留分侵害額請求を行なうケースでは相続人や相続財産の調査に時間がかかることが多く、1年という期間があっという間に過ぎることもあり得ます。
そのため、相続開始から1年以内に、まずは遺留分侵害額請求を行う旨の通知を配達証明付きの内容証明郵便で行い、遺留分侵害額請求権を1年の期間内に行使したことを記録に残しておく必要があります。
3. 遺留分侵害額請求調停を申し立てる
話し合いがまとまらない場合には、裁判をするほかありません。ここでいう裁判は「調停」と「訴訟」の2種類を指しますが、まずは遺留分侵害額請求調停を申し立てる必要があります。
このように、訴訟をする前に調停をしなければならないというルールのことを調停前置といいます。調停では、調停委員に間に入ってもらい、調停委員の意見も聞きながら話し合いをすることになるので、第三者の視点が入ることで話し合いがまとまる可能性が高まります。
4. 遺留分侵害額請求訴訟を起こす
調停でも話し合いがまとまらなければ、最終的には訴訟をすることになります。遺留分侵害に関する適切な主張や証拠を提出しなければ請求が認められることはない上、遺留分侵害額請求は難しい法律問題を含むものですので、遺留分侵害額請求訴訟を行なう際には弁護士に依頼されることをお勧めします。
訴訟となった場合、訴訟提起してから少なくとも1年以上は時間がかかると見込んでおくべきです。話し合いや調停にかかる時間も入れると解決までには長期間を要します。
遺留分侵害額請求と遺留分減殺請求との違い
1.適用時期
遺留分侵害額請求は、民法改正により2019年7月1日から施行された制度であり、同日以降に生じた相続について用いることになります。他方、2019年6月30日までに生じた相続については改正前の民法に則り遺留分減殺請求という制度を使うことになります。
2.制度内容の違い
遺留分減殺請求の場合、請求が認められると「遺産の現物」が返還されます。例えば減殺対象となった財産が不動産である場合、遺留分減殺請求が認められると「不動産そのもの」が返還されるので、請求者と被請求者との間でその不動産を共有する状態となることがあります。しかし、訴訟までするような間柄となった当事者間において不動産を共有で管理していくことは難しく、その後共有物分割訴訟という別の裁判で争うことが少なくありませんでした。
これに対し、遺留分侵害額請求の場合、請求が認められると「金銭」を支払ってもらえます。不動産が不公平に贈与されていたケースであっても、不動産の価値に応じた金銭を支払うことで解決できるようになったのです。これにより、遺留分減殺請求によって生じた共有物に関する争いをせずに済むようになりました。
他にも制度内容の違いは複数ありますが、金銭請求のみで解決することとなった点が遺留分侵害額請求の最大の特徴です。